「司法試験・予備試験制度」のまとめ
司法試験・予備試験制度の概要
司法試験制度について、まとめました。
「出題趣旨と採点実感の一覧」についてはこちらをご覧ください。
「司法試験用法文登載法令」についてはこちらをご覧ください。
【司法試験】
Ⅰ. 司法試験
1.司法試験の定義
司法試験とは,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験であり,法科大学院課程における教育及び司法修習生の修習との有機的連携の下に行われます(司法試験法1条1項,3項)。
2.受験資格
司法試験を受けるためには受験資格が必要であり、法科大学院の課程を修了している者であるか、予備試験に合格している者であるかのいずれかが必要です(同法4条)。いずれも、受験資格を得た年の翌年度から5年間、すなわち最大5回まで司法試験を受けることができます。法科大学院生であれば、法科大学院を卒業する年度は受験できず、修了した年の5月の司法試験から受験することができます。したがって、法科大学院生が司法試験を受ける場合、通常、どこにも所属していない時期が発生することに注意が必要です。
3.司法試験の運営
司法試験は、司法試験委員会がその事務をつかさどります(司法試験法12条2項)
4.その他
司法試験制度改革については、司法試験委員会「司法試験制度等改革の経緯(司法試験委員会会議(第1回)議事要旨・配布資料)」〔PDF〕(法務省,2004年)が参考になります。
なお,現行の司法試験は、平成18年から実施されていますが、旧司法試験が平成23年まで並行して実施されていたため、それと区別するため、平成23年まで新司法試験と呼ばれていました。
Ⅱ. 司法試験の方法
試験は短答式(択一式を含む。以下同じ。)及び論文式による筆記の方法により行われます(司法試験法2条1項)。
択一式
択一式とは、試験の出題方式のうち、複数の選択肢から一つを選んで解答する方式をいいます。択一式は、略称して択一とも呼ばれます。
1-1.現行の短答式試験
短答式試験とは、司法試験における短答式による筆記試験のことであり、裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とし,次の科目について行われます (司法試験法第3条第1項)。
・ 憲法
・ 民法
・ 刑法
試験時間並びに問題数及び点数については、以下のように決定されました(「司法試験法の改正を踏まえた短答式試験の在り方等について」( 平成26年7月29日司法試験委員会決定))。
短答式試験については,科目ごとに試験時間を設定し,憲法は50分,民法は75分, 刑法は50分とする。
1 憲法 20問ないし25問程度とし,50点満点とする。
2 民法 30問ないし38問程度とし,75点満点とする。
3 刑法 20問ないし25問程度とし,50点満点とする。
1-2.従前の短答式試験
なお,平成26年以前の短答式試験は、次に掲げる科目について行われていました(平成26年改正前司法試験法第3条第1項)。
・公法系科目(憲法及び行政法に関する分野の科目をいう。)
・民事系科目(民法、商法及び民事訴訟法に関する分野の科目をいう。)
・刑事系科目(刑法及び刑事訴訟法に関する分野の科目をいう。)
試験時間は、それぞれ公法系科目は1時間30分、民事系科目は2時間30分、刑事系科目は1時間30分でした(「平成18年新司法試験の実施日程の変更について」 (平成17年11月8日司法試験委員会決定)。
司法試験における問題数及び点数等について、以下のように決定されていました(「司法試験における問題数及び点数等について」平成17年11月8日司法試験委員会決定)。
1 公法系科目 40問程度とし,100点満点とする。
2 民事系科目 75問程度とし,150点満点とする。
3 刑事系科目 40問ないし50問程度とし,100点満点とする。
旧司法試験の短答式試験
旧司法試験の短答式試験は、憲法,民法及び刑法について,択一式(マークシート方式)で実施されていました(旧司法試験Q&A(法務省)参照)。そのことから、短答式試験は、択一式試験とも呼ばれていました。
以下、短答式試験について、旧司法試験では五肢択一であったことの弊害と新司法試験での在り方について、法務省の発言を引用します。
「短答式については、例えば、どのようにすれば幅広い問題が出せるのか、多様な問題となるのかとの視点で考えた。問題の多様化という観点について言えば、従来は、五肢択一であるが故に、偶然の確率で20%程度正解するということになるわけである。なおかつ問題全てが分からなくとも、1問のみ正解があるということを示してしまうと、他の肢について知識がなくても正解してしまうという点も指摘されていた。それぞれの知識が定着しているかどうかを判別するために、五肢それぞれについて正誤を理解しているか否かを判別するという観点から作成している問題もある。その外、十肢択一とするなど、様々な観点での工夫をしていきたいと考えている。
また例えば、資料10ページの第9問については、様々な分野に関し、法令及び最高裁判所の判例に照らし、内容の正誤を各肢ごとに聞いている。幅広い問題を出すためには、従前の問題では取り上げられなかったような分野をピックアップしていくようにして、全体に満遍なく出題する工夫をしてみてはどうかということで、このような問題が作られている。また、問題によっては五肢が作れないものもある。さらに、六肢以上を作った方がより正確な理解が問えるのではないかとの観点から作られた問題もある。そのため選択肢が三肢の問題もあるし、六肢以上の問題もある。各問題に適する形で、可能な限り、真に幅広い知識が定着しているか否かということを判別できるよう工夫したいということで、短答式を作成している。」 中央教育審議会 大学分科会 法科大学院部会「第24回議事(平成16年11月17日)」(文部科学省,2004年)
2.論文式試験
論文式試験とは、司法試験における論文式による筆記試験のことであり、裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な学識並びに法的な分析,構成及び論述の能力を有するかどうかを判定することを目的とし,次の科目について行われます(司法試験法第3条第2項)。
・ 公法系科目(憲法及び行政法に関する分野の科目をいう。)
・ 民事系科目(民法,商法及び民事訴訟法に関する分野の科目をいう。)
・ 刑事系科目(刑法及び刑事訴訟法に関する分野の科目をいう。)
・ 専門的な法律の分野に関する科目として法務省令で定める科目のうち受験者のあらかじめ選択する一科目(選択科目)
選択科目は,次の8科目とされています(司法試験法施行規則第1条)。
・ 倒産法
・ 租税法
・ 経済法
・ 知的財産法
・ 労働法
・ 環境法
・ 国際関係法(公法系)
・ 国際関係法(私法系)
民事系科目については,原則として,1問を実体法と手続法又は民法に関する分野と商法に関する分野にまたがる問題(大大問,200点配点)とし,もう1問は実体法又は手続法の問題(大問,100点配点)とされていました(「新司法試験における出題形式及び問題別配点等について」(平成17年11月16日新司法試験考査委員会議申合せ事項))。
しかし、「民事系科目については,問題1問につき100点配点の計300点満点とする。」と変更され,大大問は廃止されました。(司法試験委員会,第67回会議(平成22年7月14日)決定「第67回議事要旨」,「資料8 新司法試験における問題数及び点数等について(案)」),
その結果、平成22年新司法試験まで、民事系科目第1問(2時間),民事系科目第2問(4時間)とされていましたが、平成23年より民事系科目第1問(2時間),民事系科目第2問(2時間),民事系科目第3問(2時間)に変更されました。
答練(答案練習)
答練とは、論述訓練(一定の課題等に基づき論述の機会を与え、効果的な添削指導等を行なうこと)のうち、過去の新司法試験問題又は同形式の作成問題を素材に、一定時間内において答案を作成させ、添削・解説等を行なう訓練・指導のことをいいます(法科大学院特別委員会「司法制度改革の趣旨に則った法科大学院教育の在り方について(報告)-法科大学院設立の理念の再確認のために-」(文部科学省,第18回会議,2007年),法曹養成制度検討会議委員 和田吉弘「受験指導に関する文科省の指導方針についての検討」(法務省,第13回会議,2013年)参照)。
【予備試験】
予備試験
予備試験とは、正式名称を司法試験予備試験という、司法試験を受けようとする者が法科大学院の課程を修了した者と同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定することを目的とし、短答式及び論文式による筆記並びに口述の方法により行われる試験です(司法試験法5条)。
短答式試験(予備試験)
短答式試験(予備試験)とは、 予備試験における短答式による筆記試験のことであり,次に掲げる科目について行われます(法第5条第2項)。
一 憲法
二 行政法
三 民法
四 商法
五 民事訴訟法
六 刑法
七 刑事訴訟法
八 一般教養科目
論文式試験(予備試験)
論文式試験(予備試験)とは、 予備試験における論文式による筆記試験のことであり,短答式による筆記試験に合格した者につき,次に掲げる科目について行われます(司法試験法第5条第3項)。
一 前項各号に掲げる科目(すなわち、一 憲法 二 行政法 三 民法 四 商法 五 民事訴訟法 六 刑法 七 刑事訴訟法 八 一般教養科目)
二 法律実務基礎科目
法律実務基礎科目
法律実務基礎科目とは,法律に関する実務の基礎的素養(実務の経験により修得されるものを含む。)についての科目をいいます(司法試験法5条3項2号)。
口述試験
口述試験とは、 予備試験における口述の方法による試験であり、筆記試験に合格した者につき,法的な推論,分析及び構成に基づいて弁論をする能力を有するかどうかの判定に意を用い,法律実務基礎科目について行われます(司法試験法第5条第4項)。
予備試験の短答式試験,論文式試験及び口述試験について,詳しくは、司法試験委員会「予備試験の実施方針について」(法務省,第60回会議,2009年)をご覧ください。
法曹倫理
法曹倫理は、予備試験の論文式試験の試験科目のうち法律実務基礎科目の出題範囲です。また、口述試験における法律実務基礎科目の出題範囲は,論文式試験と同様とするとされているため、法曹倫理は、口述試験においても出題範囲とされます。但し、法律実務基礎科目は、民事及び刑事について実施し,法曹倫理は,民事及び刑事の各分野における出題に含まれるものとするとされているため、独立した科目として出題されるわけではありません(以上、司法試験委員会「予備試験の実施方針について」(法務省,第60回会議,2009年)参照)。
なお,法曹倫理は、司法試験の試験科目の出題範囲ではありません。
参考文献
新司法試験実施に係る研究調査会「新司法試験実施に係る研究調査会報告書(平成15年12月11日)」(法務省,2003年)
司法試験委員会「司法試験制度等改革の経緯」(法務省,第1回会議,2004年)
司法試験委員会「予備試験の実施方針について」(法務省,第60回会議,2009年)
司法試験委員会「司法試験論文式試験における出題の趣旨の公表について 」(法務省,第79回会議,2011年)
自由民主党政務調査会 司法制度調査会・法曹養成制度小委員会合同会議「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」(自由民主党,平成26年4月9日 同会議提言,2014年)
司法試験法の一部を改正する法律案は,第186回国会において,衆・参両議院において可決・成立し,平成26年6月4日に公布されました。
なお,本法律は,平成27年司法試験から適用されます。
1 改正の趣旨
司法試験の試験科目の適正化及び法科大学院における教育と司法試験との有機的連携を図るため,司法試験法の一部を改正する法律は,短答式による筆記試験の試験科目を憲法,民法及び刑法とするほか,受験期間内に受けることができる司法試験の回数についての制限を廃止するもの。
2 改正法の概要(平成26年10月1日から施行)
(1) 司法試験短答式試験の試験科目
短答式による筆記試験の試験科目について,憲法,民法及び刑法の三科目とする。
(2) 司法試験の受験回数制限の緩和
ア 司法試験の受験できる回数の制限を廃止する。
法科大学院課程の修了の日又は司法試験予備試験の合格発表の日後の最初の4月1日から5年の期間内は毎回受験することができる。
イ 特定の受験資格に基づく最後の受験をした日後の最初の4月1日から2年を経過するまでの期間は,他の受験資格に基づいて司法試験を受けることができない旨の規定を廃止する。
※ 改正法施行日前に司法試験の受験資格を得た方について,既に3回司法試験を受験している場合も,同資格を得た最初の4月1日から5年の期間内であれば平成27年以降の司法試験の受験が可能となります。