拘束・逮捕・抑留・拘禁・拘置・留置
拘束
人の身体を束縛すること。
人の身体の自由を物理的に奪い又は制限する場合に用いられるほか(憲18、法廷秩序3②)、判断その他の行為を強制的に拘束して、それに従わせる場合にも用いられる(憲76③、行訴33①)。
逮捕
逮捕とは、人の身体を拘束すること(憲33、刑220、刑訴199以下)。但し、瞬時の拘束は暴行にとどまる。
抑留・拘禁
抑留・拘禁とは、逮捕に引き続き人の身体を拘束することであり、抑留は一時的な拘束、拘禁は継続的な拘束を意味する(憲34・38②)。
ー憲法のいう逮捕・抑留・拘禁と刑事訴訟法のいう逮捕・勾留ー
憲法33条のいう「逮捕」とは、身体の拘束の着手をいい、刑訴法のいう「逮捕」に限らず、勾引(刑訴58・68・135・152など)や勾留によって初めて身体を拘束する場合も含まれる。
他方、刑事訴訟法上の「逮捕」とは、被疑者の身体の自由を拘束し、引き続き留置すること(逮捕の効力として、48時間ないし72時間の留置が認められている。)をいい、この逮捕後の留置は、憲法34条のいう「抑留」にあたる。また、刑事訴訟法上の「勾留」は、憲法34条のいう「拘禁」にあたる。
拘置
刑法では、刑の確定した者を刑事施設に拘禁すること(刑11②、12②、13②、16)。
また、刑事施設の中で、主として被勾留者(未決拘禁者)を収容するものを拘置所という(法務省設置法8②、9①一、法務省ウェブサイト『刑事施設(刑務所・少年刑務所・拘置所)』)。
留置
人又は物を、一定の機関又はある人の支配の下に留めて置くこと。
刑法及び刑事訴訟法では、主に人を一定の場所に拘束する場合に用いられる(労役場留置について刑18、刑訴505。鑑定留置について刑訴167、逮捕の効果としての留置について刑訴203以下。勾引された被告人・証人の留置について刑訴74・75・153の2)。押収した物を保持する場合にも用いられる(刑訴123①)。
引致
権限ある機関が、身体の自由を拘束した者を一定の場所又は一定の者のところへ強制的に連行すること(勾引状・勾留状執行としての引致について刑訴73、検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕した場合及び司法巡査が私人から現行犯人を受け取った場合の引致について刑訴212、215)。私人による現行犯逮捕の場合は、引致ではなく、引き渡しである(刑訴214)。
別件逮捕・勾留
別件逮捕・勾留とは、いまだ証拠の揃つていない「本件」について被告人を取調べる目的で、証拠の揃つている「別件」の逮捕・勾留に名を借り、その身柄の拘束を利用して、「本件」について逮捕・勾留して取調べるのと同様な効果を得ることをねらいとしたもの(最決昭和52年8月9日刑集第31巻5号821頁)。
ー拘束からの解放ー
釈放
身体を拘束されている者につき、その拘束を解くこと。刑期満了その他の理由による受刑者の釈放、勾留されている被疑者・被告人の釈放等、法令に基づく拘束を権限ある機関が解く場合に多く用いられるが、違法に拘束されている者についてこの語が用いられることもある(人保一〇①・一六③)。
[有斐閣 法律用語辞典 第4版]
仮釈放
懲役又は禁錮の受刑者を刑期満了前に仮に釈放する制度。有期刑については刑期の三分の一、無期刑については一〇年を経過した後で、改悛(かいしゅん)の状がある場合に、地方更生保護委員会が決定する。仮釈放には条件が付され、その期間中は保護観察に付される。仮釈放が取り消されずに残刑期間を経過したときは、刑の執行が終了したと同じに扱われる(刑二八・二九。なお、少五八)。
[有斐閣 法律用語辞典 第4版]
仮出場
拘留に処せられた者及び労役場に留置された者を、情状により、期間満了前に地方更生保護委員会の決定で出場させる制度(刑三〇)。仮出場には条件は付けられず、これを取り消すこともできないから、仮出場の時点で刑の執行が直ちに終了するものとして扱われている。
[有斐閣 法律用語辞典 第4版]
保釈
保証金を納付させて未決勾留中の被告人を釈放すること(刑訴八八~九八)。被告人、弁護人、配偶者など一定の請求権者の請求により、又は裁判所の職権で行う。保釈を許す場合は、被告人の住居を制限するなど適当な条件を付すことができる。保釈中に裁判所から召喚を受けて正当な理由なく出頭しなかったり、逃亡したりしたときは、保釈は取り消され、保証金の全部又は一部が没取され、再び刑事施設に収容される。
[有斐閣 法律用語辞典 第4版]
ー刑事手続により身体の拘束を受けている者との面会ー
接見
一般には、身分の高い人が公的に人と会うことをいうが、法令上は、刑事手続により身体の拘束を受けている者と面会すること。これらの者と外部の者とが信書を交換すること(交通)と合わせて「接見交通」という語として用いられることも多い。未決、既決を問わずこの語が用いられるが、既決の受刑者に接見できるのは原則として親族等に限られる(刑事収容一一一)。また刑事訴訟法は、弁護人又は弁護人となろうとする者に対し、身体の拘束を受けている被疑者・被告人と、立会人なしで接見する権利を明文で保障している(三九)。
[有斐閣 法律用語辞典 第4版]
接見交通
身体を拘束されている被疑者若しくは被告人と接見し、又は書類若しくは物の授受をすること。弁護人又は弁護人となろうとする者については、立会人なしに接見又は授受をする権利が認められる(刑訴三九)。これら以外の者については、勾留中の被疑者又は被告人との間に法令の範囲内で認められるにとどまり、この場合には、糧食の授受を除き、裁判所(裁判官)においてこれを禁止することが認められている(八〇・八一)。
[有斐閣 法律用語辞典 第4版]
面会接見
面会接見とは,立会人の居る部屋での短時間の「接見」などのように,いわゆる秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の「接見」をいいます(最判平成17年4月19日民集第59巻3号563頁,長沼範良他『刑事訴訟法(第5版)』(有斐閣,2017年)P148参照)。(「接見」と鉤括弧を付しているのは,秘密交通権が保障されている刑事訴訟上の接見と区別するためと考えられる。)
電話接見
電話接見とは,弁護人と被拘禁者との間の電話による接見交通であって,弁護人の刑事訴訟法39条1項の秘密交通権を実質的に保障するもののほか,同項の秘密交通権の行使ではない形態のものも含みます(日本弁護士連合会「未決等拘禁制度の抜本的改革を目指す日弁連の提言」(2005年),長沼範良他『刑事訴訟法(第5版)』(有斐閣,2017年)P148参照))。
【参照条文】
拘束
【奴隷的拘束及び苦役からの自由】
憲法第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
(事件の審判)
法廷等の秩序維持に関する法律第3条② 前条第一項にあたる行為があつたときは、裁判所は、その場で直ちに、裁判所職員又は警察官に行為者を拘束させることができる。この場合において、拘束の時から二十四時間以内に監置に処する裁判がなされないときは、裁判所は、直ちにその拘束を解かなければならない。
【裁判官の独立】
憲法第76条③ すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
(取消判決等の効力)
行政事件訴訟法第33条① 処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
逮捕
【逮捕の要件】
憲法第33条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
(逮捕及び監禁)
刑法第220条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
【逮捕状による逮捕の要件】
刑事訴訟法第199条① 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。(略)
【現行犯逮捕】
刑事訴訟法第213条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
抑留・拘禁
【抑留・拘禁の要件、不法拘禁に対する保障】
憲法第34条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
【自白の証拠能力】
憲法第38条② 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
勾留
【勾留の理由、期間・期間の更新】
刑事訴訟法第60条① 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
【検察官の手続、検察官送致の時間の制限】
刑事訴訟法第204条① 検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
④ 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
拘置
(死刑)
刑法第11条② 死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。
(懲役)
刑法第12条② 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
(禁錮)
刑法第13条② 禁錮は、刑事施設に拘置する。
(拘留)
刑法第16条 拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
(刑事施設)
刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律第3条 刑事施設は、次に掲げる者を収容し、これらの者に対し必要な処遇を行う施設とする。
一 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行のため拘置される者
二 刑事訴訟法の規定により、逮捕された者であって、留置されるもの
三 刑事訴訟法の規定により勾留される者
四 死刑の言渡しを受けて拘置される者
五 前各号に掲げる者のほか、法令の規定により刑事施設に収容すべきこととされる者及び収容することができることとされる者
(留置施設)
刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律第15条① 第三条各号に掲げる者は、次に掲げる者を除き、刑事施設に収容することに代えて、留置施設に留置することができる。
一 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行のため拘置される者(これらの刑の執行以外の逮捕、勾留その他の事由により刑事訴訟法その他の法令の規定に基づいて拘禁される者としての地位を有するものを除く。)
二 死刑の言渡しを受けて拘置される者
三 (略)
四 (略)
(設置)
法務省設置法第8条① 本省に、次の施設等機関を置く。
刑務所、少年刑務所及び拘置所
少年院
少年鑑別所
婦人補導院
② 前項の刑務所、少年刑務所及び拘置所は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の規定による刑事施設として置かれるものとする。
(刑務所、少年刑務所及び拘置所)
法務省設置法第9条① 刑務所、少年刑務所及び拘置所は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行のため拘置される者、刑事訴訟法の規定により勾留される者及び死刑の言渡しを受けて拘置される者を収容し、これらの者に対し必要な処遇を行うこと。
二 前号に規定する者のほか、法令の規定により刑事施設その他これに附置する施設に収容すべきこととされる者及び収容することができることとされる者を収容すること。
留置
(労役場留置)
刑法第18条① 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
② 科料を完納することができない者は、一日以上三十日以下の期間、労役場に留置する。
【労役場留置の執行】
刑事訴訟法第505条 罰金又は科料を完納することができない場合における労役場留置の執行については、刑の執行に関する規定を準用する。
【鑑定留置】
刑事訴訟法第167条 被告人の心神又は身体に関する鑑定をさせるについて必要があるときは、裁判所は、期間を定め、病院その他の相当な場所に被告人を留置することができる。
【護送中の仮留置】
刑事訴訟法第74条 勾引状又は勾留状の執行を受けた被告人を護送する場合において必要があるときは、仮に最寄りの刑事施設にこれを留置することができる。
【勾引された被告人の留置】
刑事訴訟法第75条 勾引状の執行を受けた被告人を引致した場合において必要があるときは、これを刑事施設に留置することができる。
【証人の留置】
第153条の2 勾引状の執行を受けた証人を護送する場合又は引致した場合において必要があるときは、一時最寄の警察署その他の適当な場所にこれを留置することができる。
【還付】
刑事訴訟法第123条① 押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。
引致
【勾引状・勾留状執行の手続】
刑事訴訟法第73条① 勾引状を執行するには、これを被告人に示した上、できる限り速やかに且つ直接、指定された裁判所その他の場所に引致しなければならない。第六十六条第四項の勾引状については、これを発した裁判官に引致しなければならない。
② 勾留状を執行するには、これを被告人に示した上、できる限り速やかに、かつ、直接、指定された刑事施設に引致しなければならない。
【検察官・司法警察員への引致】
刑事訴訟法第202条 検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、直ちに、検察事務官はこれを検察官に、司法巡査はこれを司法警察員に引致しなければならない。
【現行犯人を受け取った司法巡査の手続】
刑事訴訟法第215条① 司法巡査は、現行犯人を受け取つたときは、速やかにこれを司法警察員に引致しなければならない。
【私人による現行犯逮捕と被逮捕者の引き渡し】
刑事訴訟法第214条 検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。
【参考文献】
法令用語研究会編『法律用語辞典』(有斐閣,第4版,2012年)「拘束」「逮捕」「拘留」「拘禁」「拘置」「留置」「引致」
高橋和之他編『法律学小辞典』(有斐閣,第5版,2021年)「逮捕」「抑留・拘禁」「拘置」「留置」
長沼範良他『刑事訴訟法』(有斐閣,第5版,2017年)